
ディラン・スコット|67秒差から世界王者へ、レースを諦めなかった判断
世界選手権を制した日のディラン・スコットは、すべてが思いどおりに進んでいたわけではありません。スレッドプッシュで苦しみ、本人の振り返りによれば、スレッドプルを終えた時点では先頭から67秒差。それでもレースを立て直し、2026年ストックホルムで男子ELITE 15の世界王者になりました。
67秒差から立て直した、ストックホルムの判断
優勝後の本人取材をまとめたRox Lyfeによると、スコットはスレッドの苦戦を、その日のレース全体が悪いことと同じには扱いませんでした。
次のランでは周囲の選手と同じペースを保てていた。それが残りの区間で攻める自信につながったといいます。Rox Lyfeの優勝後の取材紹介
続くバーピーブロードジャンプが、差を詰める転機になりました。公式記録でも、この種目は2分19秒で1位。スレッドプッシュが2分39秒で14位だったことと並べると、同じ選手の一つのレースに、大きく異なる区間があったことが分かります。
最終2位オッセラーとの差を、公式記録で見る
ここからの比較相手は、最終2位のルイ・オッセラーに固定します。先頭に対する本人談の67秒とは別の差です。スレッドプル終了時、公式Race replayの経過時間「Time」はスコット19分56秒、オッセラー19分09秒。この2人の差は47秒でした。
その差はバーピー終了時に20秒、ローイング終了時に18秒、キャリー終了時に11秒へ縮まります。ウォールボールに入る時点では、スコットはオッセラーにまだ12秒遅れていました。
最後のウォールボールを終え、公式総合タイムではスコットが15.24秒先行して優勝。
途中の差は、両者の公式Race replay「Time」の秒単位表示から計算しています。フィニッシュだけは公式総合タイムの小数秒を使います。図は6つの計測地点での差を並べたものです。途中で追い抜いた場所や瞬間を示すものではありません。
出典:スコットの公式個人結果 / オッセラーの公式個人結果。両ページのRace replayを参照。

SkiErg / タイム(分:秒):3:42 / 種目別順位:5位
スレッドプッシュ / タイム(分:秒):2:39 / 種目別順位:14位
スレッドプル / タイム(分:秒):3:10 / 種目別順位:8位
バーピーブロードジャンプ / タイム(分:秒):2:19 / 種目別順位:1位
ローイング / タイム(分:秒):3:43 / 種目別順位:3位
ファーマーズキャリー / タイム(分:秒):1:18 / 種目別順位:3位
サンドバッグランジ / タイム(分:秒):2:58 / 種目別順位:2位
ウォールボール / タイム(分:秒):3:44 / 種目別順位:3位
後半の4種目は、すべて種目別3位以内。序盤のスレッドでの苦戦だけを見れば想像しにくい、総合優勝へつながる記録です。バーピーで持ち直した後も、ローイング、キャリー、ランジ、ウォールボールと上位の記録をそろえています。
1位 Dylan Scott / 総合タイム:53:47.18 / 優勝者との差:—
2位 Louis Osselaer / 総合タイム:54:02.42 / 優勝者との差:15.24秒
3位 Tim Wenisch / 総合タイム:54:04.14 / 優勝者との差:16.96秒
ディラン・スコットはどんな選手?
名前:Dylan Scott/ディラン・スコット
国:アメリカ
出身:サウスカロライナ州ナインティシックス
HYROXへの参戦:2021年
世界選手権:2025年シカゴ3位、2026年ストックホルム優勝
2026年大会の2位はルイ・オッセラー、3位はティム・ウェニッシュ。3度の王者ハンター・マッキンタイアも同じレースを走っています。
走れなくなった17歳からの再出発
Nikeの本人インタビューでは、育った町で古いウエイトやトラクターのチェーンを使って体を鍛えていた少年時代が紹介されています。特別な施設から始まった競技人生ではありませんでした。
大きな転機は、18歳になる前の負傷です。高校最後の時期を松葉づえやギプス、車いすとともに過ごし、ランナーとしての自分を見失ったと振り返っています。回復と再出発には4〜5年がかかりました。その後、2021年に出会ったHYROXが、再び競技を追いかける場所になりました。
会社員からプロへ。家族が支えた決断
競技に専念する前は、The Suitcase of Courageのチームで、顧客であるFUJIFILMの従業員の健康やけが予防を支える仕事に関わっていました。同チームのCam Dornによると、QuickSnapカメラの製造やフィルム処理に携わる人たちの作業を、人間工学の面から分析していたそうです。
安定した仕事を離れてプロ選手になるとき、背中を押したのが妻のマリア。Nikeの本人インタビューでは、レース前に気持ちが落ち着かないとき、息子のオーガストを少しの間抱きしめることも話しています。息子は表彰台の順位に関係なく、父親を呼んでくれる。その時間が、スタートへ向かう支えになっています。
以前の仕事とプロ生活が、思わぬ形でつながった出来事もありました。Nikeとの契約後、届いた歓迎の贈り物に入っていたのが、FUJIFILMのQuickSnapカメラ。かつてその製造に携わる人たちを支えていたスコットのもとへ、今度は選手への贈り物として届いたのです。このエピソードを紹介したのは、元のチームのCam Dornでした。
王者になっても、練習を続ける理由
優勝して数日後、スコットはまた練習へ戻りました。Rox Lyfeの取材で語った理由は、防衛への重圧ではなく、トレーニングそのものが好きだから。世界タイトルを得ても、次の日にしたいことは変わりませんでした。
同じ取材紹介で今後の課題に挙げたのは、苦戦したスレッドプッシュでした。ただ回数を重ねるのでなく、SkiErgやRowErgと組み合わせて疲労した状態を作り、その中で力を出すことに取り組みたいと説明しています。
英語の本人インタビューは、Rox Lyfeのディラン・スコット特集に掲載されています。生い立ちと家族の話を読むなら、Nikeの本人インタビューもおすすめです。
スコットと同じ舞台を走る選手の歩みは、HYROX選手名鑑へ。本人のレースから競技そのものに興味が広がったら、初めてのHYROX練習ガイドで、フォームを教わるクラスと自主練習の違いを確認できます。大阪で器具を使う場所を試す際は、マッスルゲートのビジター利用ガイドから登録・購入・入館の流れへ進めます。
参考資料
文:ROX NOTE編集部
